非接触・遠隔ソリューションが食品栄養学科の高い衛生管理と 細やかな実習指導をサポート
より良い教育環境のための業務効率を解決する映像音声統合システム
課題
奈良県奈良市にキャンパスを置く近畿大学農学部食品栄養学科は、実学を重視した教育方針でリアルな経験を学生が体験できるよう、実習に力を入れている。その実現には最新のテクノロジーの活用が不可欠であると考え、調理実習棟建設を機にIT機器とシステムの刷新がなされることとなった。一番の課題は、限られた人数の教員の力を最大限活用し、高い衛生基準を保ちながらいかに質の高い実習ができるかという点にあった。同学科の実習で必須とされるHACCPに準じた厳格な衛生管理基準をクリアするには調理過程ごとに設けられた8つの部屋を、それぞれに異なる衛生ランクで管理すると同時に全体の流れを俯瞰して見ていく必要があった。そこで3名の教員がそれぞれの部屋で実際に学生に指導しながらも他の部屋の状況をリモートで確認・指導したい要望が出された。
ソリューション
近畿大学の要望を受けて、業界初の試みとなるタブレットによる映像のリモート確認と音声呼びかけ指導のシステムが導入されることとなった。調理工程ごと8つに分かれた部屋にはそれぞれ固定ドームネットワークカメラAXIS P3245-LV/LVEが合計16台設置された。また、カメラとスピーカーを集中管理するためのソフトウェアAXIS Camera Stationを内蔵したS1116レコーダーを準備通路に設置・接続することで、各部屋の様子が教員の持つAXIS Camera Stationのアプリをインストールしたタブレット端末からリモートで確認できるようになっている。同じく各室にネットワークスピーカーAXIS C1410またはAXIS C2005を設置し、カメラとスピーカーをAXIS Camera Station上で紐づけすることで、教員からの指導や指示が実習を行う学生のもとに個別に届くしくみが実現した。
結果
今回のシステム導入により、教員が各部屋へ移動することなく必要に応じて個別指導や指示ができるようになり、以前と比べ効率的な実習指導が可能となった。調理室内は厨房機器による騒音が絶えずあり、調理による湿度の高い現場でありながらも、必要な音声が学生に届き、クリアな映像にも満足頂いている。現在3名という限られた人数ながら、最新のテクノロジーの活用でHACCPに準じた厳しい衛生基準をクリアし、8部屋に分かれる大量調理実習の現場でも学生に応じたきめ細かい指導を可能としている。教育現場のIT化の先駆者としていち早く映像と音声による非接触の遠隔ソリューションを導入した近畿大学であるが、今後も先進的な取り組みにより、さらにリアルな体験を学生へもたらすことが期待される。
HACCPに準じた厳しい衛生管理を最新ITテクノロジーの力で効率的に実現し、学生にリアルな実習環境が提供できたことを大変喜ばしく思っています。
システム導入の背景と詳細
近畿大学農学部食品栄養学科では、臨床栄養、食育、食品の3つの分野に特化し、実学重視の教育で幅広い知識を持つ管理栄養士のスペシャリストを育成している。特に大学病院や医学部との連携、幼稚園から大学までを備える栄養教育に最適な総合教育環境、農学部所属による生産から流通までを一貫して学べるカリキュラムは、近畿大学ならではの恵まれた環境によるものである。
食品を扱う同学部の実習に欠かせないHACCPに準じた厳しい衛生管理基準について、「ハードとソフトの両面から多くの時間と手間を要し、大学のような大規模な施設になるほど全体の管理が難しくなります。より多くのリソースを本来の教育に割くために、最新のITシステムを活用してHACCPに準じた運用基準を効率的にクリアしていきたいとの思いがありました。」と語るのは、農学部食品栄養学科の冨田圭子 准教授。洗浄、下処理、調理など衛生ランクごとに分かれた8部屋を個別に管理しながらも、同時に全体として漏れが無いようプロセス全体を俯瞰できる仕組みが必要だった。そのため3名という限られた教員が各部屋で絶えず動きまわりながらも、他の部屋の作業もリアルタイムで確認し学生に指導を行うことが今回一番実現したい課題であった。
相談を受けた株式会社トーエネックが提案したのは、AXIS Camera Stationを集中管理ソフトウェアとして導入し、各部屋に設置した固定ドームネットワークカメラAXIS P3245-LV/LVEとネットワークスピーカーを連携するというシステムだった。それぞれの画像を俯瞰で把握しつつ、ネットワークカメラにグルーピング設定されたスピーカーから音声による呼びかけが可能となった。AXIS Camera Stationアプリを各教員の持つタブレットにインストールしたことで、教員がどの部屋に居ても、タブレット端末上で確認できる仕組みを整えた。これまでも、教員が集中管理室から各教室の画像を確認するというシステムは他施設においてみられたが、今回のシステムは初の試みと言える。
そのため、「前例がなかったのでシステムを組むところから始めなければならない点が一番苦労しました。」と導入を担当した株式会社トーエネック 情報通信部ICTシステムグループ 副課長 太田 真人氏は語っている。「冨田先生から実習方法やHACCPに準じた環境要件などを伺ううちに、タブレットを利用した運用フローを考えました。ACS(AXIS Camera Station)は、タブレットで運用可能なアプリなども整っており、使い勝手が一番良かったため、今回採用を決めました。」またHACCPに準じた衛生環境を整えるため、埃がたまりにくい形状のカメラや天井埋め込み型のスピーカーが選ばれた。さらに設置現場は、ファンや調理器具の騒音がある中、様々な環境下を飛び回る教員が安定して使える機種の選定や設定にも試行錯誤の上、実現した。
新システムが導入された現在、3名の教員はタブレットを身につけアクティブに動き回りながらより多くの学生への指導を対面とリモートの両方で日々行っている。「運用も分かりやすく、タブレットさえ消毒しておけば、非接触で別室の指導を瞬時に行うことができ、衛生管理が保たれるという点は非常に魅力的に感じています。(冨田圭子 准教授)」
今回のシステムは、もともと教員から学生への指導やコミュニケーションを第一の目的として導入されたものだが、実際の運用を始めてみると思わぬところでも役立つことが分かった。普段各部屋を指導に回る教員同士はなかなか同じ場所にいることがないのだが、離れていてもタブレットツールを介して必要な連携を即座に取ることができ、指導に関する情報や必要な作業をリアルタイムで共有できるようになった。これは集中管理室から状況を監視する従来のシステムでは実現できず、今回システムならではのメリットだと言えるだろう。また実習を受ける学生にとっても、常にカメラの向こうで指導の目が光っているという緊張感と見守られている安心感が良い影響を及ぼしているという。最新の設備を導入する一方、SDGsの観点からシステム拡張性や長く使い続ける点も重視している近畿大学の非接触・遠隔ソリューションは、今後の教育現場と食品衛生管理をリードするものとなるだろう。